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No.2 初舞台
2015年5月、高校の昼休み。
ソウタロウは数名の級友とともに昼食を食べていた。
彼らの後方では男子15人ほどが席をくっつけ輪になっている。
その輪に入りそびれたもの同士が集まり、緩やかで浅い関係を築いていた。
毎日昼休みに集団をつくるのも、頑なにその輪に加わろうとしないのも、どちらも異様な光景に思えるのだが、ソウタロウはその状況に満足していた。
慣れて安定してしまったのである。
他愛のない会話をしているのだが、ソウタロウは上の空だった。
なぜなら放課後に演劇部の1年生による公演が控えており、頭はそのことで一杯だったからである。
彼が演じる役は無口なため台詞は数個しかない。
それでも、初めての舞台に緊張していたのだ。
ソウタロウの通う高校の授業は1授業あたり55分で、昼休みを挟んで午前と午後で3授業ずつある。
朝起きてからずっと落ちつきがなかった彼は、午後の授業ももちろん集中できなかった。
数言の台詞とそのタイミング、動きを頭の中で何回も確認していた。
6時間目の授業の終わりのチャイムが鳴り響く。
ソウタロウの表情は一段とかたくなる。
机に広げた教科書やノートを鞄にしまい、ぎこちない足取りで看護棟を目指す。
看護棟には7つの部屋があり、そのうち1つは教室3つ分の大部屋となっている。
大部屋とひと部屋を演劇部が、別のひと部屋を文芸部が使っている。
その他は廃材置き場となっており、彼らを除いて看護棟に立ち入る生徒は普段いない。
今日の公演は大部屋で開催される。
会場とは別の部屋に荷物を置き、公演の準備にとりかかる。
1年生の部員は10人で、男子はソウタロウを含め2人だけ。
それぞれ準備をすませて舞台袖に入る。
開演までの時間がソウタロウにはやけに長く感じられた。
心臓が飛び出しそうなほど大きく鼓動し、手には汗がにじんでいる。
緊張のあまり自意識過剰となって、思考の渦の中に閉じ込められている。
すると、同じ袖で待機している部員に肩をたたかれる。
振り返ると、笑顔でこぶしをつきあげている。
その笑顔につられてソウタロウの表情は柔らかくなる。
反対側の袖で待機している部員の方を見てみると、そちらもにこやかだった。
お客さんがいてもう少しで本番だがまだ始まらない、舞台袖で待機する特殊な時間を楽しんでいるようだった。
楽しむことはできないもののソウタロウの心はいくらか落ち着いた。
やがて開演の時刻となる。
上演時間は20分ほど。場所は高校でお昼休みのシーンから始まる。
終演後、部員で輪をつくり反省会が行われた。
1年生が順番に感想を述べていき、ソウタロウの番となる。
「弁当箱を持つ手が震えてて…、緊張で、うわーってなったんですけど、なんか、それでもすっごい楽しくて…、あの、よかったです!」
もっとまともに話してほしいものである。
向いているとは思えないし、お世辞にもうまいとは言えない演技だったが、この日、彼は舞台に立って演じることにハマったのだ。