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No.1 演劇部
2015年4月、ソウタロウは新潟県に引っ越した。
歩いてすぐの所に信濃川が流れている10階建てマンションの6階、4LDKの部屋が彼の新しい家だった。
その家で1年間、父と2人で生活する。
というのも、兄と弟の学年を鑑みて兄弟2人と母は富山に残ることになったからである。
来年には4人で暮らす(兄は高校卒業後どこへとやら行く)予定のその部屋は、2人で住むには広すぎだった。
生活感のない余白だらけの家で、彼は憂鬱な新生活を始めた。
高校の入学式が終わって数日たったある日の昼休み、教室の片隅でソウタロウは弁当を食べていた。
後方では男子15人ほどが席をくっつけ輪になっている。
慣れない環境にナーバスになっていた彼はクラスの人間となじむ機会を見失っていた。
彼の他にもその輪に入ろうとしない男子が数名いる。
ソウタロウはそんな状況を気にしないように努めていた。
放課後になり、彼は学校の端に位置する看護棟に向かった。
そこで演劇部の新入生歓迎公演が開催されるのだ。
演劇に興味があり、ひとまずその公演を観てみようと思ったのである。
看護棟は校舎と講堂をつなぐ廊下から分岐された通路の先にある。
道すがら様々な部から勧誘の声をかけられた。
先日ソウタロウは空手道部に捕まり公演を見逃していたので、今日は確固たる思いで誘いを断り続けた。
やっとの思いで入り口にたどり着き、彼は恐る恐る中へ入った。
薄暗い廊下は壁も含めなぜか緑色で不気味な空気が流れている。
(あ…帰りたい…)
独特な雰囲気に気おされたソウタロウは引き返そうとした。
しかし、奥に立っている演劇部員と目が合ってしまう。
彼は迷いながらも部員のほうへと歩き始めた。
突き当りが会場らしく演劇部の看板が出ている。
そこまで行くと部員が注意事項を伝えてくれた。
「暗いから気を付けてね」と言われ会場に入る。
中には他にも数名の1年生がいる。
それなりの広さの部屋らしいが全体像はわからない。
窓があると思しき部分には新聞紙が張られ外からの光を遮っている。
座席の後方と斜め前には照明が置かれている。
舞台とされている場所には玉座のようなものがあり、パネルによって奥は見えなくなっている。
開演の時刻が近づきブザーが鳴る。
しばらくして照明が舞台を照らし出し劇が始まった。
内容はRPGの敵役たちに焦点を当てたもので登場人物は4人。
それぞれが個性的で演じている学生が生き生きしている。衣装や音響、照明もソウタロウの想像を超えてつくりこまれていた。
ありきたりな内容なのかもしれないが、その舞台にかける熱さがある。
(これだ!)
ソウタロウは目を輝かせていた。彼のやってみたいことがそこにつまっていた。
舞台から発せられるエネルギーに心うたれ夢中になっている。
新潟に来てから彼の胸には鬱屈した思いが立ち込めていたのだが、彼らの純粋な情熱がそれを吹き飛ばした。
終演後、ソウタロウは演劇部に入る意思を固めていた。